スマイルズが最初の社長交代へ。遠山正道に代わり、取締役CCO野崎亙が社長に就任します。

2023.02.09(木)

2023年2月9日付で、株式会社スマイルズの代表取締役社長の遠山正道が社長を退任し、取締役社長として野崎亙が就任することとなりました。今後は野崎亙を筆頭に、実業知を生かしながら、世になかった価値の創出を進めていきます。遠山正道は23年務めたスマイルズの「社長」を野崎亙に託し、代表としてさらに伸びやかに邁進していきます。

創業から今日まで、「誰にも似てない」価値づくりを目指して

株式会社スマイルズは、2000年2月9日、遠山正道が在職していた三菱商事株式会社コーポレートベンチャー0号として設立されました。1997年に「Soup Stock Tokyo」の企画となる物語形式の企画書「スープのある一日」を起案、1999年にSoup Stock Tokyo第1号店をオープンさせた後に立ち上がった会社です。2008年には遠山正道がMBO(マネジメント・バイアウト)を実施、以後はSoup Stock Tokyoのみならず、ネクタイ専門店「giraffe」、ニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」といった自社事業を展開してきました。

2016年からは、Soup Stock Tokyoが分社(代表取締役社長 松尾真継)。時を同じくして、全ブランドのクリエイティブ統括をする野崎亙がプロデュース・コンサルティング事業「Smiles: PROJECT & COMPANY」を推進しました。インハウスのクリエイティブチームであるスマイルズならではの「実業知」を生かし、事業開発からデザイン・PR・空間デザイン、WEB構築に至るまで、行政や地方自治体、大企業から個人の作り手、宇宙からマグロの尾っぽのブランディングまで、規模や業種問わず、「自分事」の伴走を続けています。理念である「生活価値の拡充」、最初の求人広告で掲げた「誰にも似てない」は、23年後の今日も変わらずに、スマイルズの根っこにあります。 baton.jpg

■新・取締役社長 野崎亙からのコメント
遠山さんからバトンを引き継ぐことになりました。随分前から並走させてもらい、長い助走の末に、スマイルズの轍と目指す景色がおぼろげながら見えてきた気がします。これからもまっすぐには進まずに、迂回しながら、時には羽ばたきながら、時には潜りながら、「誰にも似てない」やり方で新しい轍を築きたいと思います。その先に目指したかった景色があるはずだと信じて。

<プロフィール>
京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などのビジネスプロデュースや経営コンサルティングに従事。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、「100本のスプーン」のリブランディングや「PAVILION」の業態開発等も行う。さらに、入場料のある本屋「文喫」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。
*受賞歴:「グッドデザイン・ベスト100」「グッドフォーカス賞 [新ビジネスデザイン] 」
*著書:『自分が欲しいものだけ創る!スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』(日経BP)

■新・代表 遠山正道からのコメント
大リスペクトの野崎に渡しました!Soup Stock Tokyoから始まって23年、皆さまには本当にお世話になりっぱなしでした。ひとまず一回、ありがとうございました!しかし、これからの野崎やスマイルズや、私も、益々無邪気に実験的に、どんどん皆さまを巻き込んで、未だ見ぬ未だないところへ、ごんごんといきます。新種の幸福を、つくりますよ。外も内も皆さま、容赦してよろしくお願いいたします!

<プロフィール>
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、ニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。さらには「The Chain Museum」を創業、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。2022年に還暦を迎え、「新種の老人」を名乗るほか、個人会社「とおい山株式会社」を設立。
*著書:『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)、『新種の老人 とーやまの思考と暮らし』(‎産業編集センター)他


遠山正道×野崎亙 社長交代特別対談
「スマイルズは自分ごと。社長だって自分ごとで。」

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スマイルズが創業23周年を迎える、2023年2月9日。23年にわたって社長を務めた遠山正道に代わり、取締役CCO野崎亙が新社長に就任します。創業以来、初めての社長交代となる新社長の野崎亙と現社長の遠山正道が、いつも通りのトーンと間合いで、これまでとこれからを語りました。

■目次
・22時のLINEで、社長交代の話は進んだ
・「実業」と「クライアントワーク」は、どちらも自分ごと
・「やりたいことをやるというビジネスモデル」の考察
・「やりたいこと」は、ある視点賞みたいな仕事
・「やりたくないこと」も、今一度話しておこう
・はみ出し者のユニークネスは、世の価値になる
・粘土のような組織で、想像を超えていけ
・これからの「会社」の在りようを探して
・最後に、スマイルズの一人ひとりへ

22時のLINEで、社長交代の話は進んだ

遠山:あれは10月のことで、たしか夜22時くらいかな。野崎からLINEで「もう決めました。社長になります」みたいなLINEがピコンと来たんだよね。もうずいぶん前から、実質的に野崎体制だったから、会社の皆にとっては驚くことではないと思うが。夏くらいから北軽井沢でスマイルズ副社長の松尾(スープストックトーキョー社長)、取締役の野崎とはそういった話はしていたんだよね。そこからすこし時間があいて、あの夜のLINEがあった。

野崎:僕が遠山さんにLINEを送る時は、たいてい酔っぱらっている時です(苦笑)。スマイルズは、社内政治とかがないし、やるかやらないかで議論しなくてもいい。お客様に向けて、まっすぐ向き合えるのが最高じゃないですか。そんな奇跡みたいな会社はそうないです。僕は「社長になりたい」っていう思考がもともとあるタイプの人間じゃないけれど、その最高な会社でさらにもう一歩進みたいと思ったんです。その日は、クリエイティブチームの皆と熱く語った日で、帰り道に「僕たちはもう、次に進もう!」って思ったんですよね。

遠山:受け取ったこちらとしては「あぁ~ありがたい」って素直に思った。なんでかって、うちは、常々「自分ごと」って言っているわけで。採用でもそうだけど「うちに来なよ!」ってこちらが強く誘う感じというより、「自分はスマイルズで働いて、ここをもっとよくしたいです!」って、一歩踏みこんでくれる感じの人と一緒にやってきたでしょう。それと同じで、野崎は「自分ごと」で「自ら社長になると決めた」ってこと。スマイルズのいい意味での"とがり"を感じる、すごくうちらしい交代劇だと思う。

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野崎:おぉ...なんとも遠山さんらしい受け止め方というか、たしかに言われてみれば、これも「自分ごと」ですね。僕はある時から、肩書の時代は終わったと思ってるんです。今の時代、クリエイティブディレクターと名乗ること自体は難しいことじゃなくなっている。だからこそ、その人が結局「何をやったか」のほうが大事。そうなると、もはや肩書に残された役割は、立場や視座を変える力だと思う。今のスマイルズのメンバーの成長も後押ししてくれていて、皆で新しい景色を見るために、このステップが必要だと思いました。

遠山:野崎のその「チームのみんなで新しい景色を見たい!」っていう気持ちはこれまでもずっと一貫していたよね。私自身もだいぶ前から、「社長交代、もうそろそろだよね」とは思っていた。だけど肩書って難しい。「スマイルズの会長」って名乗ると、 "ちょっとあがった感じ"がするでしょう。昨年還暦を迎えてからより一層思うけど、そうじゃないんだよなぁと思って「代表」と表現することにした。

「実業」と「クライアントワーク」は、どちらも自分ごと

遠山:ご存じの通り、私は三菱商事でサラリーマンをやりながら、33歳の時に絵の個展を開催した。誰にも頼まれていないけど、自らの発意を形にした。その体験が強烈で、自分で発意して、自分が楽しみ、自分でもがき、家族や周りの方に力を借りて、Soup Stock Tokyoなど自前主義の事業をやってきた。あの個展がなければ、Soup Stock Tokyoというブランドは生まれていないし、スマイルズという会社も生まれていないよね。そのあとも、giraffeに、PASS THE BATONに、100本のスプーンにと広がって。私自身は、自分たちの発意を起点にしたブランドや事業しか、生んでいない。野崎がクリエイティブをまとめてくれるようになってからは、社内のクリエイティブの力をコンサルティングやプロデュースという形で、ほかの企業さんたちに生かせるようになった。クライアントワークだって、基本スタンスは自分ごとだって言っているもんね。どこまでいっても、実業からの地続きという感じがする。

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野崎:クライアントワークを普段やっている企業が実業をするケースは多いけど、実業をやっている企業がクライアントワークっていうケースはまだまだ少ないですよね。自社事業を日々営み、試みを重ねているからこそ、その知見を活かして、他社さんへリアリティのある提案ができる。僕のキャリアは、新卒で事業会社、前職がデザインコンサルティング、そしてスマイルズで再び事業会社というプロセス。だからこそ、細部までこだわることの大切さ、視座を変えて全体を捉えることの大切さの、どちらも経験してきました。実業だって、クライアントワークだって、毛細血管の先、神経の先までみんなでこだわりたいんです。今は、プロダクト開発やコンセプト開発もはじめ、エリアプロデュースなんかもやっています。

「やりたいことをやるというビジネスモデル」の考察

遠山:これを機に野崎に聞いてみたいことがあるんだよね。私はスマイルズを立ち上げて、いろんな言葉を創ったり、考えを伝えたりしてきた。「生活価値の拡充」「5感」「世の中の体温をあげる」とかね。野崎は11年くらい前にうちに転職してきたのに、私たちが23年培ってきたことをちゃんとベースにしながら理屈や論理を作っているじゃない。あれがすごいなって思うんだけど、あれってどうやってるの?

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野崎:ね、さすがですよね~(照笑)。その理由を話すと、11年前に入社した動機につながります。遠山さんとは入社前から面識はあったんだけど、11年前に青山のバーで、当時広報だった玉置さんと一緒に会ったじゃないですか。印象的だったのが、「君は好きな人は誰?」って聞いてこられて、「岡本太郎です」みたいな会話をしたんです。「いいね。私も昔、三菱商事の後輩たちに岡本太郎を朗読してたわ」って話してくれて。で、その日は、僕が入社するかどうかっていうタイミングだったのに「君は、何やりたいの?」とかは聞かれなくて。その後に、遠山さんと副社長の松尾さんと一緒に面談した時も「君は、何やりたいの?」みたいな話、またしても、されなかったんですよ(笑)。その時に、気付いたのが「この会社はやりたいことは自分で見つけて、自分で実行する」っていうスタンスなんだなとはっきり分かった。

遠山:その頃から、うちのスタンスを見抜いてくれていたってことね。自分にエンジンがついていて、目的地が自分の中で見えている人の会社だからね。

野崎:先ほどのロジックの話に戻ると、ロジックって基本的になにかしらの「実行」のあとに作られるものだと考えているんです。仮説だけがあってもロジックとしては強度を持たなくて、「なにかをやる」から、ロジックが見えてくる。その点でいうと、スマイルズは「やる会社」ですよね。「やりたいことをやるというビジネスモデル」という本をかつて遠山さんが出していますけど、ただ「やる」んじゃなくて「やりたいことをやる」っていう意思のあるタイプの「やる」を重ねている。「やりたい」から、あらゆることを想定して準備をやりきる。それで、「やる」から精度の高いオリジナルなロジックが見えてくる。そういう会社だから、ただの受け売りではないロジックを作れるんだと思います。

「やりたいこと」は、ある視点賞みたいな仕事

遠山:野崎はさ、子どもの頃とかってなりたい職業とかあった?

野崎:まったくなかったですね。聞かれても「ない」って答えていました。なんなら、やりたいことがないから、大学から大学院に行ったともいえる。やりたいことならない。でも、「やりたいことがない」という自分はある。人生を通じてこれをやりたいはなくても、一瞬一瞬には「やりたい」がたくさんありました。あと、明確な「やりたい」がないからこそ、誰かの「やりたい」を自分の「やりたい」に変換することもできたと言えます。やりたいがないからこそ、やりたいの可能性がかえって、無限にあるわけです。

遠山:私の場合は、常にいろんな「やりたい」があるんだよね。かっこよくいうと、映画監督みたいな感じってよく言うんだけど、その都度その都度、「スープ」とか「ネクタイ」とか、「やりたい」にあわせて、プロジェクトとチームを作るのが好き。

野崎:映画で思い出したんですけど、僕はね、カンヌ国際映画祭の「ある視点賞」っていうのが好きなんですよ。こういうふうにみたら、こういう価値があるんじゃない?っていう提案をしていたい。

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遠山:いいね~。それってなにか前提があって、そこに見立てがあるということだよね。 ネクタイがあって、「首を締め付けられるものでなく、高い視点を持つためのもの」みたいな見立てがあって「giraffe」ができたように。今私がやっている会社のThe Chain Museumも、「美術館」という前提に、私たちがやってきた「チェーン展開」っていう視点を取り入れて始めたものだし。

「やりたくないこと」も、今一度話しておこう

野崎:「やりたいこと」について話してきましたけど、逆に「やりたくないこと」って何だと思いますか。

遠山:うちでいうところの失敗は「やらないこと」ってこれまで言ってきたけど。今あえて言葉にしておくならば、数年前に、ある大型商業施設に出店した時のケースかな。商業的な理由にやや押されて出店を決めて、自分たちのブランドの美学と違う方向に進んでいってしまった。商業的な合理性と、自分たちの美意識が戦うことがある。ビジネスが成功するのは喜ばしいことだけど、変な迎合をすると、自分たちが粘れなくなるし、愛せないブランドになってしまう。

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野崎:遠山さんも昔から仰っていますけど、どこまでも自分に理由を持つことが大事。当時の経営会議で、そのお店のことを議論していた時に、遠山さんが「もうやめよう」って言ったのがめちゃくちゃ印象的でした。あれは遠山さんが僕たちに見せてくれた決定的な経営判断だった。「価値かカネか」と問われても、価値があってこそのビジネスだってより明確になりました。時代の先行指標となるビジネスにおいては特に、即座に利益がでるってことは少ない。「自分たちがやりました」って胸を張れるビジネスか?っていうのは、我々の経営判断の軸ですね。

はみ出し者のユニークネスは、世の価値になる

遠山:野崎はよく「一人も取りこぼさない、クリエイティブ集団」って言ってるよね。一人も取りこぼさないってとても大事だけど、それをクリエイティブ集団で叶えようとしているのって結構すごいことなんじゃないかと思うんだけど、どう思う?

野崎:組織における「はみ出し者」「変わり者」って、本当はとてもユニークネスをもっている人だと思うんです。組織を円滑に運営しようとすると、戸惑う人もいるだろうけど、そういう個性ほど、救いたくなるっていうよりか、"掬い"たくなる。いいところを掬って、磨いていけば、一人ひとりが自信をもって変容していくし、組織の力になる。特に、クリエイティブのチームにおいては、強固なユニークネスが価値を拡張する。「誰にも似てない」価値を生みだす源泉になっていくと思うんです。

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僕、この話がすごい好きなんですけど、長年働いてくれている須永くんは、昔はgiraffeにいて、今はクリエイティブチームでPMとして活躍してるんです。昨年から「コネクティブディレクター」って名乗ってもらっているんですよ。社外に会いたい人がいた時に、たいていの人は須永くんとつながっているんですね(笑)。友達が多いみたいな、そういう個性に名前を付けて、個人の得意がどんどんチームの力になっています。PASS THE BATON MARKETでも、クライアントワークでも、彼が生み出した人とのつながりが、プロジェクトのうねりになっています。

遠山:彼なんか見てると、いかにもスマイルズ的という感じがするよね。「須永くんがいるならやりたい」っていうプロジェクトもあるだろうし、まさに個人に光が当たってるよね。

野崎:「パティシエ 兼 プロジェクトマネージャー」の葛川くんなんかもそうですよね。和歌山のクライアントに頼まれたあんバターサンドの商品開発をしながら、北海道でガラスメーカーのプロダクトの撮影ディレクションをする、みたいな。

遠山:そこまでいくと、もはや同一人物なの?ってなる(笑)。その人の持つ多義性や可能性を、周りがどうやって捉えて、生かしていけるか。 ブランドっていう視点でみても、スマイルズのブランドの人格って、結構バラバラだもんね。昔さ、うちの経営計画発表会で、ブランドのメンバーのキャラクターの違いが如実に出ていたことあったなぁ。

野崎:ありましたね。Soup Stock Tokyoのみんなはピュアでファミリー感があって優しい人たち。PASS THE BATONはクールビューティー。giraffeはやんちゃで片手にビールを持っているみたいな(笑)。

遠山:これはさ、会社の中でもそうだけど、お客さんたちについてもそうだよね。スープとバトンで、いわゆる「相互送客!」とか考えたことなかったもんね。いつも周りの経営者たちには不思議がられていたけど、ブランド各々に人格があるように、ブランドを好きでいてくれるお客さんたちにもキャラクターがそれぞれある。多様なんだけど、掘っていくと急に通底する価値観でゆるやかにつながっているという感じ。ブランドについてもお客さんについても、さっきの社員についてもだけど、その個性や人格、得意なことを守っていたいよね。

野崎:僕が事業創造においても「N=1」と言っているのは、まずは生活者としての自分を捉え、自分を肯定していくことで、逆にそこに世の中や生活の豊かさのヒントがあると思っているからなんです。生活から生まれ出たものだからこそ、商機があるともいえる。一人ひとりが否定されることのない、世の中の体温が全体としてあがるということを目指したいです。

粘土のような組織で、想像を超えていけ

野崎:ありがたいことに、スマイルズという組織に興味を持っていただけることも多くて、ワークショップのご依頼や、HR関連のご相談もあったりします。

遠山:私はよく、映画の「○○組」のようなイメージと表現してきているけど、野崎の場合はどんなふうに表現しているの?

野崎:プロジェクトべ―スという意味だと、いわゆるティール組織っぽい編成ではあるし、結合と再生を繰り返す的な感じだとアメーバ型とかも浮かぶのですが、最近は「粘土っぽい」って思っています。

遠山:粘土?

野崎:一人ひとりが粘土っぽい。可変性が高くて、自由自在。どの組み合わせでも、想像しきれなかった完成形になっていく。自社事業であれば、2019年から始まったPASS THE BATON MARKETなんかも顕著な例ですよね。PASS THE BATONの昔からのメンバーもいれば、新卒で入ったデザイナーもいて、出戻り入社したPMがいて、giraffeのメンバーが行列の最後尾をマネジメントする。クライアントワークにおいても、クライアントの業種業態も本当に多様です。自治体さんもあれば、地方で真摯にものづくりをするメーカーさん、みんなが日常的に手に取るような大手メーカーさんまで、一つひとつのお悩みには幅がある。プロジェクトの度に、こねこねして、またこねこね。自分の全体がその造形の主になることもあれば、部分的な自分を差し出すケースもある。

遠山:いいなぁ。私も何か一緒にやりたいな...(笑)。

野崎:もちろん、ぜひやりましょう(爆笑)。
L1054151.jpg 僕がクリエイティブを統括してから、組織でいいパフォーマンスを出すために心掛けているのは、システムを極力排することです。システムがあると、システムのルールで通るように行動してしまう。たとえば、社内に多数決というシステムがあったら、多数にうけそうなものばかりを提案してしまいかねない。部署という単位で言えば、「新規事業開発部」があったら、その箱でやるから「やりたい」より「やらなきゃいけない」の可能性が高まってしまう。弊社の場合、新規事業開発部がなくても勝手に事業がうまれてきたし、海苔弁だって、PASS THE BATONだって。やりたいことを「どうやって価値に変えようか?」から始まっている。会社だから最低限のシステムは必要だけれど、できる限り組織をフラットにして、可動域を広く持っていたいと思っています。

これからの「会社」の在りようを探して

遠山:私は数年前から「プロジェクト化の時代」ということを言っているけれど、会社という単位そのものの意味あいについては考えさせられるよね。

野崎:僕自身は「独立したい!」って思ったことが一度もないくらい、会社というチームがいいなと思っているわけなんですが、コロナ禍もそうですけど、ビジネス環境の大きな変化もある中で、「選択と集中」の脆さが露呈した気がします。環境が変わって、何かの事業が止めざるを得ないと、経験値がすごく少ない状態になってしまう。会社そのものの業容を定めきらないこと、曖昧でいること、複数の事業があること、業界にとらわれずにいることは、実は自分たちの可能性を拡げ続けるだけでなく、長い目で見ると、リスクヘッジにもなっていると思うんです。だからこそ、そこに所属する個人もそうですし、組織も会社も「経験値」を得て、将来的なリスクを減らし、自らの可能性を拡げ続けることができる。会社というのは、今やそういう意味合いを持っているんじゃないかと思います。

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遠山:私自身が複数の会社で働き、いろんな事業を展開しながら、コミュニティを複数もっているのもちょっと近いのかな。私が、これからのスマイルズという会社に期待することは、まず一つ目に小さくなってほしくない。5年後とかに「あの時はまだこんな景色が見れているとは想像できていなかったよね!」っていう嬉しい変化があってほしい。二つ目に、個人生活の在りようが仕事に効いてくる会社の在り方を探ってほしいし、個人に還元されるような仕事の在り方を発明してほしいな。

最後に、スマイルズの一人ひとりへ

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遠山:最後にスマイルズの一人ひとりや、これを読んでくださっている方へ。何か言葉にしておこうかな。23年間、本当にいろいろ感謝しかないんだけれども、私としてはあまり変わっていなくて。これからますます、スマイルズも、私自身も忙しくなりそうです。スマイルズには、これからは逆に一担当者として参加させてほしいな。アサインよろしくね。どういうわけか、野崎にバトンを渡したことで楽しみが増えました。あとはね、私は33歳の時、自分が個展をやった時に「こうじゃなきゃいけないってことはない」って気づきました。Soup Stock Tokyoのような歴史を重ねたブランドも、今一人ひとりが手掛けているブランドや事業においても、改めて「こうじゃなきゃいけないってことはない」はずです。スマイルズのみんなにおいては、精度の高いビジネスと、シンプルなたたずまいと、文化の発信をもっともっと進めていってほしいな。

野崎:『船頭多くして船山へ登れる』はず。スマイルズの一人ひとりは結構バラバラ。得意も性格も価値観も全然違う集団です。でもそれがウリだとも思っています。でも共通することがあるとしたら、"自分らしく"あることが当たり前な一人ひとりということかな。そもそも考えてみれば、ある部分は誰かと似通っていたとしても360度の自分であれば、誰一人として同じ人間がいないのは至極当然。至極真っ当。自分ではない"誰か"が周りにいて、年齢も性別も上下も関係なくそれぞれの"自分らしさ"を出し合えば、一人の力なんて余裕で超えていくもんだ、なんて思います。現に僕ですら、遠山さんですら、想像つかなかった世界を何度も見させてもらっています。みんなのことが誇らしくもあります。誰かが掲げた一見正しいフラグなんてどこかに置き去り、気が付いたら海を渡るでもなく高い山へ登っていた、そんなこともありえると思っているのです。それがまだ誰も見ぬ景色を見つける唯一の手段なんじゃないかな。 だからこそみんなには船頭であってほしい。そのすべてが叶うわけじゃなくても、どんな小さなクワダテも、どんな大きなプロジェクトでも関係なく、自分の中にフラグを掲げて向き合ってほしいと思っています。(おわり)


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Photo : 小穴啓介( Smiles: )
Edit : 花摘百江( Smiles: )

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